東京高等裁判所 昭和57年(う)587号 判決
一 所論は、要するに、原判示第一の事実につき、被告人が、須藤敏男と共謀したことも、その実行行為に加担したこともないのに、被告人について、須藤との共同正犯が成立するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。
そこで、記録を調査して検討すると、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第一の事実は、その共謀の点をも含め、すべて優にこれを肯定することができる。すなわち、被告人は、原審公判廷において右事実をすべて認めていたものであるばかりでなく、関係証拠によれば、本件犯行当日午前三時ころ、原判示須藤敏男方において、同人から「女を連れて来い。」といわれた際、これまでの被告人と同人との特異な性的嗜癖から、同人が被告人の連れて来る女性を強姦しようとしているものであることを知悉しながら、同日午前七時ころ、かつて同じ会社に勤務していたことのあるH女を「今日、これから会つて欲しい。H女さんしか頼む人がいない。一生の頼みだから会つて欲しい。」と電話して千葉市内の鎌取駅前に呼び出したうえ、さらに「実は昨夜は男の家に帰らなかつたので怒られる。昨夜はあなたの所に泊つたことにしておいて欲しい。電話ではまずい。時間をとらせないから、男の家まで一緒に来て説明してくれ。」などと言葉巧みに誘つて同女を原判示須藤方に連れ込んだこと、さらに、敏男が一階応接間のテーブルの上に予め覚せい剤や注射器を準備しているのを現認し、また、敏男が同女に対し「覚せい剤を見た以上は簡単には帰せない。お前も打て。打てば帰してやる。」と怒号し脅迫しているのを聞き、敏男が覚せい剤を注射したうえで同女を強姦しようとしていることを知悉しながら、敏男が右H女の腕に覚せい剤を注射する際、敏男に注射器を渡したり、右H女の腕をおさえるなどし、さらに、二階寝室において、敏男が右H女に「見ていろ。見なければだめだ。」などと怒鳴りつけながら、被告人と性交した後、右H女を強姦しようとした際、同女が被告人に対し「何でこんなことをするの、森川さん助けて。」と哀顔しているのにも耳も藉さず、「よごれるから脱いだほうがいいわよ。」などといいながら敏男とともに同女の着衣を剥ぎ取るなどの行為に及んでいることが認められ、被告人と敏男との間に、右犯行について意思の連絡があつたことはもちろん、被告人が右実行行為に加担していたことも優にそれを認定することができるのであつて、被告人に右敏男との共同正犯が成立することはこれを認めるに十分である。
二 所論は、要するに、原判示第一の事実につき、強姦罪は男性のみが為しうる犯罪であるから、女性である被告人に同罪を適用することは許されないばかりでなく、何らその実行行為に加担していない被告人に対し、強姦罪の共謀共同正犯が成立するとし、また、覚せい剤を注射した行為は、強姦罪の暴行・脅迫の手段若しくは同時の行為としてなされたものであるから、牽連犯若しくは観念的競合の関係に立つものと解すべきものであるのに、これを併合罪とした原判決は法令の解釈適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
しかしながら、強姦罪は、その行為の主体が男性に限られ、刑法六五条一項にいわゆる犯人の身分により構成すべき罪に該当するものであるが、身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによつて強姦罪の保護法益を侵害することができるから、身分のないものが、身分のある者と共謀して、その犯罪行為に加功すれば、同法六五条一項により、強姦罪の共同正犯が成立すると解すべきである(最高裁昭和三七年(あ)第二四七六号同四〇年三月三〇日第三小法廷決定・刑集一九巻二号一二五頁参照)。従つて、原判決が、さきに説示したような被告人の原判示所為について、刑法一七七条前段、六〇条、六五条一項を適用したことは正当であつて、所論のような法令の解釈適用の誤りは存しない。
また、原判決が、原判示第一の犯行の際、被告人らが、H女に覚せい剤を注射して使用した所為と強姦の所為とを併合罪として処断していることは所論指摘のとおりであるが、覚せい剤の不正使用は、それが強姦罪における暴行・脅迫の一方法として行なわれたものであつても、通常手段・結果の関係にないことはもちろんのこと、これらの犯罪は、その立法趣旨、保護法益、犯罪の罪質、態様を異にするものであるから、原判決が、これらを併合罪として処断したことは正当であつて、所論のような法令適用の誤りは存しない。